幸せの種まき

今月は法人内でお金の話が出たので、内部連絡にお金の話をします。

お金の本質のひとつは「信用」です。
例えば自分が住んでいる場所が川のほとりの村で、
誰かが川から魚を取ってきて誰かにくれて、
その代わりに誰かが山から木の実を取ってきて交換してくれる。
そんな社会だけならばお金は必要なくて、人同士をつなぎとめるのは信用だけになります。

今の拡大して複雑化した社会ではそれが成り立たないので、
その信用を誰もが納得できる数値化した概念で定義しているだけです。
今この瞬間に自分達が飢えもせずに快適に生活できているのは、
全く会ったこともない知らないどこかの誰かが働いてくれているからであって、
その役割を繋いでいるのがお金であるだけです。

医療者はその点において恵まれている点がふたつあります。
ひとつは自分達の労働がユーザーや社会から直接に目に見えるものであること。
もうひとつは、普通の生業ではお金を受け取る方が「ありがとうございます」と言うのが普通ですが、
医療福祉においてはこちらの方が「ありがとうございます」と言ってもらえることです。

ですので、労働の対価が少ない業務でもそこに信用や信頼、感謝の気持ちが生まれるのであれば行った方が得です。
それが自分達の幸せにもつながります。
逆に金銭的な報酬が高かったとしても、その行動が信用を損なうものであれば行うべきではありません。
最終的にはこちらも損をします。

「医療はサービス業ではない」という言葉をひと昔前には聞くこともありましたが、
どこからどう見ても医療はサービス業ど真ん中です。製造業でも金融業でもありません。
この考えの基には「ありがとうございます」と言うべき対象が違うという認識があって、
対極には「患者さんにこびへつらうものではない」という考えもあると思います。
もう少し昔には誰でも「患者様」と呼ぶ全く逆の価値観もありましたが、
これも同じ考え方を別の方向から見ているだけです。

そうしたら、医療者が患者さんや他の方々に提供できるホテルサービスはなんなのでしょうか。

自分達しかできない役割の根本は「人は必ずいつか亡くなるもの」だということです。
この必ず起こる事実を、自分や自分の家族のこととしては受け止めることができない。
そんな人間の弱さを支えられる役割が現代では医療福祉職くらいしかいません。
自分達は患者さんにとっては第三者ですから、客観的に状況と事実を把握して、想定しておく。
目の前にいらっしゃる安定した患者さんもいつかはその局面に遭遇する。
それを想定して、どれだけ先回りして動いていけるかが在宅医・訪問看護師の役割です。

体調や病状の急な変化はコントロールできないことばかりですが、
目の前の安定した患者さんが急に衰弱したり、脳梗塞を発症したり、
重症の肺炎になったり、転んで身動きが取れなくなった時に、
本人だけでなく周りも含めてどうなるだろうか想定して対応方法を考えておくことはできます。
その対応はどのような医療処置を行うかだけではなく、
家族にどう説明をするか、周りの環境をどう変化させるかが大切になります。

そう考えると、病状が安定している時でもできることはあって、家族や施設との関係性を築いておく、
他には、何かしらのタイミングで家族にも現実を想起してもらうように働きかけることができます。
そしてそのベストタイミングのひとつが、「シビアではないけれども家族がすごく心配されるような体調変化」、
つまり夜間休日の臨時の時なんです。

「今回はとりあえずこうして大ごとでなくて済みました。大丈夫です。けれどもまたいつか同じことがあって、
また良くなって、同じことを繰り返して、いつかにすとんと休みたくなる時がやって来ます。」
いったんホッとしたところに冷たいくらいの客観的な現実をしっかりと投げかけておく。けれどもそれに寄り添う姿勢を示しておく。
臨時の対応をした時と言うのは、寄り添う姿勢を行動で示した「臨時対応」をした時なのでいちばん働きかけやすいです。
その臨時のタイミングでなくても、その次の日や明けの月曜日などに確認の訪問予定を組んでその時にひと言投げかければ成立します。

たくさんの患者さんがいる中で、モグラたたきのように幸せの種まきをしておくことが自分達の役割です。
そうすれば表面的なものに捉われることなく、本質的なサービスに焦点を当てることができます。

また社会的にも自分達の存在意義が成立します。
国が在宅医療に求めていることは救急搬送件数を抑えて社会保障費をなんとか減らすことですから、
この幸せの種まきは社会が求めていることの本質に合致します。

細かい診療報酬やリモート化のことなどは気にする必要はありません。
この本質に合致した役割を担っていれば社会の方が勝手に自分達についてきます。
表現を変えれば、普段は処方だけして何かの時に病院に丸投げするだけの在宅医療は社会は全く求めていません。
無くても困らないしAIが代替してくれます。

この役割を担っているだけで社会の方から自分達を求めてくれて、どこかの知らない誰かが自分達にも快適な生活を届けてくれます。
ですから、急性期の病院とはまた異なる機能で立派に社会に貢献できますから、自分達の役割を果たしてください。

もうひとつ自分達が恵まれている点がありました。
人様の家に靴を脱いでお邪魔して、人生や家族をまるまる拝見する仕事なんて他にはなかなかありません。
ですので、仕事が自分にとっての生き方や価値観を教え、成長させてくれます。

自分達が患者さんに何かを働きかけることで患者さんの何かが変わって、
患者さんが自分達に教えて下さることで自分達も成長する。
そう繰り返すことで、ある患者さんの価値観を他の患者さんに再帰的に伝えることもできる。
上手くいったことも上手くいかなかったことも全て含めて、自分自身が積み重ねてこれたのかどうかが「経験」なのだと思います。

そういうことで、
①しっかりと役割を担って、幸せの種まきをして
②在宅としての24時間365日対応を分担でしっかりと継続して
③急性期の病院に入院をお願いするならば、できる限りに
1.「今はどんなことが起こって、何を病院でしてもらいたいか」
2.「家族との方針は元々どうなっているか」
3.「退院後はいつでも在宅で引き受けさせて頂くこちらの意思」をしっかり伝えて
できる限り平日の日中にお願いできるように努力する。
上記の①②③を当院が国から示されている役割の全てです。

業務連絡:代わりに
当番の時はきっちり時間外の対応をしてもらって明けはしっかり休んでもらって、
平日は17時で携帯電話をきっちり留守番電話にして早く帰ってください。
業務連絡ですが改めて、うちの法人は勤務時間が長いことを評価していません。どちらかと言うと逆です。

産育休も遠慮なくしっかり取得して、そのかわりにお姫さまのような手厚い保育園を無料で使って職場復帰して、
そして患者さんや介護者のことを考えてマメに訪問して幸せの種まきをして、しっかり働いて手当を受け取って、
賞与が出たらアートメイクでも水光注射でもダーマペンでもなんでも良いですから格安で利用してください。

ちなみにダーマペンは最低3回は繰り返さないと効果が足りないので3回以上受けてください。もったいないです。
それで社会はきちんと回っていくので安心してください。うちのクリニックは女性が主役の職場です。