「103歳、最期までお風呂に入られた優しいおばあちゃん」
中央区ではいろいろなとても人生経験の豊富なおばあちゃんがいらっしゃいます。
初めの診察したのは、最後から4年前。99歳まで介護認定を受けず、
ご自宅の急な外階段も歩いて、とても笑顔の優しいおばあちゃんがいらっしゃいました。
この方は娘さん方が4人もいて、手厚く明るく中央区内のアパートにお住まいでした。
ところがある時に転んでしまって足の骨を折ってしまい、動くとがなかなかできなくなって、真冬の時期に往診に伺いました。
とにかくこのおばあちゃんは笑顔がステキで、僕たちが診察を終えるといつも三ツ矢サイダーを飲みなさいと下さいました。
自分達なんて、孫が複数に来た、という風にしか見えなかったのでしょう。
しばらくは穏やかで、楽しい診療のひと時を過ごさせて頂きました。
ところがその3年後の冬前に、急に急に食事の量が落ちてしまって、食事も三ツ矢サイダーくらいしか飲めなくなって、
そんな、そろそろデイサービスは中止して訪問入浴に変更したことで、患者様はとても気持ち良く安心されたそうです。
本当に雪の多い真冬の時期でした。
ご本人が気持ち良いなーと感じて入浴ができていたとある11月。訪問入浴中に急変が起こりました。
訪問入浴後に血圧ががくんと下がり、呼吸も下顎呼吸になってきた。
緊急で伺いましたが、息はかすれた状態で、肺炎でも明らかな外傷性の者もなく、
静かにベッドに移して、娘さん方、訪問入浴の職員さん方もお忙しいのに、皆さんで死亡診断に立ち会って頂きました。
介護を受けている限りは何かを動かせばそれだけ何かが起きる可能性は増えます。
ベッドから起き上がれば転んで怪我をしてしまうかもしれないし、お風呂に入れば心臓に負担がかかるかもしれない。
もしも何も起きないことを目指すならば、ベッドの上で寝たきりで入浴しなければ良いのですが、
当たり前ですが人としての尊厳、いちばん良いだろう生活を考えたら正しいはずがありません。
この方の出来事についても、家族がお医者さんの捉え方によっては入浴中の事故だと捉えられることも多いと思います。
しかしながら今回は、老いていく日常の中で偶然に入浴中に起きたことなだけです。
今回はたまたますぐに駆け付けられたから良かったものの、成り行きによっては救急車を呼んで、
警察を呼んで、その後に入浴のスタッフさん方が公務的に職務質問を受けて、となるのが目に見えています。
介護を人に頼むということは責任も含めて誰かに任せるということですから、
お互いに信頼をし合って関わり合うことが必要です。
だって、自分が産まれたばかりの赤子の時には母親が恐る恐る沐浴をしてくれたはずなのに、
自分の母親がお風呂に入れなくなった時にこそお礼返しの親孝行をしてあげたいでないですか。
「こういうことが起きたら困るから」「こういうことがあってはならないから」を優先するならば、
それ自身が最後まで親に甘え続けているような気がするんです。
家族が自分の手でしてくださいなんて綺麗ごとは言わないので、人の手を借りて親孝行できたらいいなと思います。
このおばあちゃんの場合は、突然だったけれども娘さんから、
おばあちゃんがこんなにきれいにしてもらって気持ち良く過ごせてもらって本当に良かったとおっしゃって頂けました。
訪問入浴のスタッフさん方もその言葉に心が救われて、良かったなと思えたおうちでした。