人と人とを切り離すウイルス、結びつけるコミュニケーション
先月4月からブログを自粛させて頂き、申し訳ございませんでした。
緊急事態宣言の解除が決定されたことに合わせて、
当院のブログも再開させて頂きます。
この3か月間では皆様の周りでもいろいろなことがあったと思いますが、
当院でも様々なことが起こりました。
2月の末頃からの一か月間は、
原因が分からずに酸素飽和度が60%を切る事態が立て続けに発生しました。
また、原因が不明な四肢末梢の血流障害と壊疽も立て続けに発生しました。
患者様方それぞれでその経過は異なりました。
PCR検査が困難な条件で、自宅で家族みんなで療養を続けた方、
施設内での感染リスクを引き受けて救急入院を受け入れてくださった病院、
自分に感染するかもしれない不安と対峙して診療を続けてくれたスタッフ。
本当にたくさんの方のご協力があって、診療を続けることができました。
とりあえずとなりますが、本当にありがとうございました。
3月下旬からの一か月間は、このウイルスのもうひとつの恐ろしさに直面しました。
施設に入所されている方は家族と面会できない。
病院に入院されていても家族は患者さんに会うことができない。
実際に感染しているかどうかにかかわらず、
このウイルスの存在は家族を引き裂きました。
面会することができないから自宅へ無理やり連れて帰ってきました、
という方にたくさんお会いしました。
また別に、施設では悲しいことも経験しました。
また4月に入り、保育に関わる問題も複数、遭遇しました。
自分自身も初めて児童相談所の方と話し合う機会がありました。
ある場所では家族同士が物理的に引き離され、
ある場所では自宅に閉じ込められて逃げることができない。
家族同士の気持ちが引き裂かれました。
また、この頃から急に、病院への入院対応が難しくなりました。
通常だと入院をお願いするべき患者さんが、
なんとか自宅で過ごさざるを得ないことが多く発生しました。
そして、新型コロナウイルスがすぐ近くにやってきました。
職員のおうちの近くの空手道場で発生しました。
職員のおうちの隣の高齢者施設で発生しました。
患者さんが通われているデイサービスで発生しましたし、
保育園のお母さまが勤務されている職場で発生しました。
退院時会議で足を運んだ病棟でクラスターが発生しました。
いつも通う理容室の上にあるコールセンターで発生しました。
職員の友達の友達が陽性でした。
みんなそれぞれ、そんな話を聞きましたよね。
誰だって、そりゃあ、怖かったですよね。
在宅医療を経験してから14年間、
リーマンショック、東日本大震災、
新型インフルエンザ、ブラックアウトも経験しましたが、
こんなに施設と居宅で、事情が異なることは経験しませんでした。
保育園もそうですが、何か月も会えないと何が起こるかというと、
何をしているのか、何を考えているのかわからない不信感でした。
ご自宅ならば実際にご家族が介護されて、
自分達が患者さんに携わる姿が見えますが、
施設は全く逆で、
施設の方々が必死に介護されている姿、
医療者が診察している様子が、
ご家族には全く見えず、
ありとあらゆるところで不安・不信が高まりました。
コミュニケーションの大切さを痛感致しました。
昨年は10連休で病院の対応が難しい緊張感がありましたが、
今年は別の意味で、同じように病院の受け入れをお願いできない覚悟を持ちました。
連休中も在宅で行き先がなく、
飛び込みで往診の依頼をいただいたことが多かった印象があります。
この3か月で、医療機関によって事情は様々だったようですが、
当院にとっては、目まぐるしく忙しい3か月でした。
そんな中で何よりにありがたかったことが、
この状況で、クリニックも保育園も、
皆が協力して、一致団結してくれたことです。
いろいろと大変なことが多かっただろうに、
普通にいつも通りに笑顔で皆が仕事をしてくれた。
本当にありがたいことでした。
そこで、今回新たに試みた方法は、
特に病状が不安定な患者さんについて、
診療のたびにその様子を写真で撮影をして、
ご家族へ直接、電子メールで送る方法でした。
本来は情報の機密性保持のためには行わない方が良いのかもしれません。
けれどもこれ以上コミュニケーション不足による不信を増長させるわけにはいかなかったので、
当院は積極的に行うことにしました。
家族に会えない、物理的に離れてしまう状況では、
視覚的な情報は言葉以上に、ご家族を安心させる強力な手段でした。
きちんと点滴や輸血などを行っている様子、
患者さんご自身が笑顔でいらしたり、元気にお食事を召し上がっている様子を、
写真でひと目見えるだけで、それは当然にほっとします
。
今までは、カルテに記載する内容として、
文字情報については誰しもが違和感は持っていませんでしたが、
写真を撮影するとなると盗撮などを連想させ、
音声を記録すると盗聴や第三者録音を想起させます。
診療内容だけではなく、その方のより強いプライバシーに踏み込むからだと思います。
ちょっと昔では考えられませんでした。
データベースに画像情報を載せることができたのもこの10年くらいです。
日常業務においても、離れていると相手がどのようなことをしているのかわかりません。
遠隔診療についてももしかしたら、
正確な診断を行うための手段だけではなくて、
お互いの信頼関係を保つためのものでもあるのかもしれません。
人と直接あって話し合いをしてつながる、
電子情報を利用してつながる
両方の大切さを痛感した経験でした。