夏休みの宿題

夏休みの宿題

8月の学校は夏休み真っ最中。
今年も初夏から暑い気候が続きます。
夏休みの初めは心もうきうきしているのですが、
お盆が近づくと気になってくるのが、夏休みの宿題です。

僕が大学生の頃、自分がどんな医者になりたいのか分からず、
考えあぐねていていました。そんな時期の夏休みに、
東京の実家へ帰ったついでに地元の病院を
見学させて頂いたことがありました。

北海道では勤医協と呼ばれますが、
本州では民医連と呼ばれる母体の、中規模の病院です。
当時のこの法人は政治色の強さなどのイメージがありましたが、
昔から家への往診など地域活動も活発にされている病院です。

実家のある板橋区の近辺は、赤羽や高島平など、
今でこそ都心への交通の便の良いベッドタウンですが、
もともとは昔からある民家や都営住宅の多い、下町地域です。

東京大仏が鎮座し、30年前には大根畑のあったこの地域に、
元の郵便局長さんが、その郵便局の上に住んでいらっしゃいました。
癌末期の療養をされている患者さんで、ご自宅に学生実習として訪問させて頂きました。

関東出身の人が自らすすんで関東以外に移住することはあまりなく、
北海道は広い大地のある雄大な場所で、良いイメージがあります。
自分が板橋を出て北海道に住んでいることをお伝えしたら、
その患者さんから、夏休みの宿題を頂きました。

「そうかい、きみは北海道に住んでいるのかい。
北海道に住んでいるのならば、木の椅子を作りなさい。
きみのためになるから。」

そう言われて、当時はぴんとこなかったのか木の椅子を作る機会が今までなく、
夏休みの宿題は未提出のままです。
けれども、なんだか20年以上経った今でも心のどこかに引っかかります。
今思えばどうして、そんなことを僕におっしゃったのだろう。

旭川といえば、楢や栓、タモを使った、日本一の嫁入りタンス
北海道の家といえば木の城たいせつ。
東川町では、地元で生まれた赤ちゃんに手作りの椅子を贈る事業があるそうです。
もしかしたら、自分たちにとっては今住んでいる恵まれた環境が当たり前すぎて、
僕は北海道の良さを見逃してしまっているのかもしれません。

もうひとつ、研修医3年目の時に室蘭の病院に勤めていたのですが、
平日の夜の、病棟の夕食が出てくるゆっくりとした時間帯にひとりで回診に行った時、
たしか腎臓癌の化学療法の後で入院されていた患者さんと記憶しているのですが、
「ここに住んでいるならばゴルフを一生の趣味にしなさい。
一番いいコースは御殿場だ。御殿場。いつかは御殿場でゴルフをしなさい。」
最後の回診の夜にそんなお言葉を頂きました。

そんな言葉を残されて天寿を全うされて、ちょっと困ってしまいました。
確かに北海道といえばゴルフをしないともったいないですし、ありがたいアドバイスですが、
僕は携帯電話を持っているのでそんな簡単にはゴルフとか行けないです。
まして御殿場なんて、ディズニーランドよりも遠い場所です。

人は人生の最後には誰しもが心残りな記憶を覚えるそうです。
だからこそ、人生を振り返った時に頂く言葉は重みがあります。
とても、貴重な教えを頂けます。
ただ、人の価値観って、思った以上に多彩です。
同じ言葉を頂くことは滅多にありません。

とりあえず中の島の練習場か手稲山で頑張ってみます。