15年間付き添ってくださった看護師さん
40年前のすすきのは今よりももっと人の多い、夜の繁華街。
週末になると大通りだけでなくはずれの通りもタクシーがずらっと並び、
日付が変わってからもお蕎麦屋さんは呑み帰りのお客さんで大盛況。
そんな時代におばあちゃんは長年、夜中まで老舗のお蕎麦屋さんを開いていらっしゃいました。
昭和の時代にはテレビで取り上げられたくらい有名なお蕎麦の味を
おばあちゃんは今でも、お店のあるおうちに住まわれて、お蕎麦屋さんを見守って下さいます。
長く長く、時にはお店を手伝ったり、いつも見守っていらっしゃいます。
それでも徐々に足腰が弱くなり、地元の訪問看護ステーションから看護師さんがいらして下さいました。
訪問したはじめの頃はまだ達者でいらっしゃいましたが、
長い年月をかけて、心不全などの病気も繰り返して、徐々に体が動かなくなってしまいました。
15年をかけて少しずつ、体調が変わっていきました。
訪問看護師さん方なんて、ご家族にとってはまるで娘のような存在です。
おばあちゃんの介護を通して、みんなが成長していきました。
みんながおばあちゃんに、教えて頂いていました。
そんな最後の2年間に、訪問看護師さんから紹介を頂き、訪問診療に伺いました。
おばあちゃんは少しばかり認知症が進み、
同じ言葉を繰り返されたりはされますが、
いつもにこにこ笑顔で穏やかな様子です。
在宅酸素療法も受けていらっしゃいますが、
笑顔でかわいらしいご様子にこちらもほっこりしてしまいます。
娘さんも日中はお仕事を頑張れながら、
その時その時におばあちゃんの様子をみて下さいます。
酸素をつけたり外したりしながら、今のソファを寝たり起きたり大変です。
夕方には看護師さんが訪問して下さいます。
もうほとんど身動きが取れなくなって、全身が浮腫み始めて、
看護師さん方はほとんど毎日、手足を揉んでくれていました。
お風呂に入ることが難しくなっても、
看護師さん方はほとんど毎日、全身をきれいに拭ってくれました。
心不全の状況は芳しくなく、とてもつらい症状なはずですが、
そこには「温かさ」が溢れているので、娘さんにとって心強い存在でした。
おばあちゃんの介護を通して成長した看護師さん方に、今度は助けられています。
4月になる直前の月曜日の夜に、おばあちゃんは息を引き取られました。
看護師さんも一緒に、そばにいて下さいました。
介護は親が家族に伝えられる、最後の教育です。
それが信頼関係で結ばれていれば、家族だけではなく医療者にとっても教育になります。
きれいごとだけでは済まない業界ですが、
福祉に携わる方の受け捉え方によっては、その人の考え方や価値観にとっても、
仕事が色々なことを教えてくれます。
おばあちゃんから看護師さんへ「ありがとう」、
看護師さんからもおばあちゃんに「ありがとう」。
そういう素敵な時間を、見させて頂いた診療でした。