完食しないといけない。

今年の冬に「ごう在宅ほいくえん」では、保育士さん、看護師さん、栄養士さん皆で話し合いをしてくれました。
職員さん方が今まで働いていた保育園や保育所では、お子さんの年齢や体重に合わせて食事の量を決めて、
それを最後までしっかり食べることを重視している施設も多かったそうです。

当園は0歳から3歳までの園児さんの保育園なので、それぞれの月齢と年齢により、食事の内容も量も全く違います。
それでも、当園ではあえて厳密な食事管理を行わず、園児さんご本人が食べたい量を食べるということにしました。
なによりも、「楽しく食べる」を一番大切なことと考えています。
なので、時には眠たくて食事の量がいつもより少ない時もありますし、逆におかわりをされることもあります。

訪問診療を行っていると、特に施設に多いのですが、やはり同じようなことが起こります。

介護施設では、保育施設と同じように、
患者さんが食事をどの程度召し上がっているのか「10のうち8食べられました」などと計測していきます。
診療するお医者さんや看護師さんも、体調管理の目安として食事がどの程度摂取できているかを観察します。
今は電子カルテや電子介護記録が充実しているので、それが数字となって記録されていきます。

産まれたその日から最期の日までいつでもなのですが、人間ですから食べたり飲んだりできない日もあります。
美味しくごはんを食べられる日もあれば、食べられない日もあります。
それは忙しくて時間がなかったり、悲しいことがあって心が落ち着かなかったり、
逆に誰かとお話しが楽しく弾んでいつもよりもたくさん食べてしまったり、誰だってそんな日があります。

時々、「身体を診るのか患者さん自身を診るのか」などと問われることもありますが、
お医者さんや看護師さんはどちらを診れば/看ればよいのでしょうか。
その時々によって臨機応変ですが、どちらも診られればそんな良いことはありません。

しかしながら理想と違って、なかなか難しいところもあります。
普段の診療は時間に追われますし、患者さんと一緒に食事を食べるわけではありませんから。
普段はお元気なのに食欲のない患者さんには、点滴などの治療を行います。

しかしながら、例えばとても高齢で少しずつ食事の量が減ってきている方とか、
癌や心不全などの病気が進行してきた結果として食事の量が減ってきている方には、
客観的に見たら驚いてしまうくらい食事の量が少なくても、点滴をしないことが少なくありません。

小さな子供は毎日成長するために多くの栄養を必要としますが、
だんだんと歳を取りとても高齢になってくると人間は、思ったほど栄養を欲しません。
元気な方からみるととても不安になってしまうくらい、食事を求めません。
塩分や蛋白質など代謝しきれない量の栄養が身体に入ると、内臓に負担がかかります。
逆に、食べなければ、るい痩という栄養が足りない症状や、床ずれなどが自然と起きてきます。

ひと昔前には、鼻からのチューブや胃瘻というチューブから栄養を投与することが多くありましたが、
最近はあえてそういうことをせずに、ご本人の望まれるままの食事に寄り添う考えも広まってきました。
どちらも間違っていないのですが、選ぶことができる時代だからこそ悩みは尽きません。

だからこそ、「全部食べなければいけない」とか、「こうしなければいけない」などと重荷を感じずに、
気ままに過ごしていければなんて幸せなことでしょうか。
自分や他人にあまりいろいろと課すよりも、不安な時が訪れたら人に相談すればいいんです。
人間はいつか必ず食べなくなる時がやってくるし、食べることのできない時代もあったと思えば、
今日も美味しくご飯を食べられる、健康な体と豊かな社会があることに感謝するしかありません。

保育園でも介護施設でも家庭の食卓でも、みんなで楽しくごはんを食べられる。
これからもそんな保育園であり続けてくれたら嬉しいです。